リナ・ブイヴィダヴィシウテ
1986年5月14日生まれ。詩人、文芸批評家。リトアニア語での詩集を2作発表している。リトアニアの主要文芸誌、外国語誌に詩を発表。文芸朗読会、新作紹介、コンクールなどに積極的に参加している。
本稿ではリトアニアの現代文学シーンを紹介すると共に、リトアニア現代詩の最も重要な視点と傾向を示していく。まず指摘しておきたいのは、強烈な影響力を伴う変化が始まったのは1990年のリトアニア独立以降だということだ。独立によって、認識面に重大な変化が生じた。世界に向かう動きが生まれたのだ。芸術と文学を含む多くのグローバルな文脈が手に入るようになり、理解できるようになった。独立したリトアニアの文学の任務は、独自性と国としてのアイデンティティを守りながら、それを国際的な傾向と文脈に結びつけることだった。過去20年を振り返ると、この任務はクリエイティブに遂行され、成功したことがわかる。
リトアニアの現代詩
実に多彩なスタイルとテーマに溢れているリトアニアの現代詩の状況を説明することは容易ではない。しかし、いくつか明らかな傾向を挙げることは可能だ。リトアニア現代詩はモダンクラシック、告白詩からポストモダン的な遊び心を感じさせる詩まで実に多彩だ。たとえば、アンタナス・ジョニナス(1953年生まれ)は、旧来からある古典的ジャンル(ソネット)を使い、新鮮でモダンな解釈を加える。 アイヴァラス・ヴェイクニス(1983年生まれ)も、伝統に倣いながらそこからインスピレーションを得ていることがよくわかる。同時にヴェイクニスは、普遍的な様式と原型に独自の個人的な解釈を加えようとしている。ギーティス・ ノルヴィラス(1976年生まれ)は、言語の重要性と有機的な物語organic writingというコンセプトを強調する。 ノルヴィラスの第4作「 Sinking 」は、「空間化」の詩と呼ぶことができるだろう。過去10~20年の間に重要性を増し、注目を集めるようになったのは告白詩だ。その多様性は「傷ついた女らしさ」から「傷ついた男らしさ」にまで及ぶ。たとえばギエドレ・カズロウスカイテ(1980年生まれ)は、「女性作家、母親、女性の同性愛者、若い研究者の内的ドラマや喜劇を分析する。[・・・] リトアニアの詩に典型的な自己憐憫を避けながら、文化的な関連性、文学的な暗示やアイロニーを存分に駆使する」(ヴィルジニヤ・シバラウスケ、「Contemporary Lithuanian poetry and its contexts」 Poetry – Lithuanian Culture Institute)。ヴィタリヤ・ピリポウスカイテ=ブキエネ(1981年生まれ)の詩は、女性の心理と生理が持つ暗い側面を描写する。ラムナス・ルトケヴィチウス(1982年生まれ)のデビュー詩集「The Dance Turns in the Light」は、慣習に囚われない男らしさを解釈し、「依存症、感情の健康、セクシュアリティに取り組む」(ネリンガ・ブトノリウテ、「Debuts in poetry that reach for the light」Debuts in Poetry that Reach for the Light – Vilnius Review)。 マンタス・バラカウスカス(1989年生まれ)は詩集第2作「 Vexation 」で、順応するばかりのライフスタイルと資本主義的な夢に替わる選択肢を提供する。グレタ・アムブラザイテ(1993年生まれ)、マリヤ・マジューレ(1985年生まれ)、 クリスティナ・タムレヴィシウテ(1989年生まれ)らの詩は、家族の歴史、世代を超えて受け継がれるトラウマ、癒しの可能性を取り上げる。ポストモダン的な美学、遊び心、間テクスト性を取り上げるのはシモナス・ベルノタス(1993年生まれ)の詩である。
リトアニア現代文学の社会的文脈
リトアニア現代文学の世界での認知度は高まる一方である。リトアニア文学を世界の舞台で紹介することに重要な役割を果たしている文化機関はいくつかあるが、そのうちのひとつがリトアニア文化協会だ。2008年に設立された同協会は、外国にリトアニア文化を紹介するさまざまなプログラムの企画・コーディネイトを担当し、翻訳助成プログラムを設けている。同協会のウェブサイトではリトアニア現代文学に関して多くの重要な興味深い記事を読むことができる(Lithuanian Culture Institute – LCI)。オンラインマガジン「ヴィリニュス・レビュー」では、リトアニアの文学作品が翻訳で紹介されている。最新の小説、最新の全集からの詩や短編作品、エッセイからの抜粋、また興味深いリトアニアのノンフィクション作品からの抜粋、さらにはリトアニアの著名な作家へのインタビュー、書評、リトアニア文学に関する記事、関連のオーディオ・ビデオ資料が揃っている(About – Vilnius Review)。リトアニア文学をもっと知りたいと思っている人には必読である。
毎年2 月に開催されるヴィリニュス国際ブックフェアは、リトアニアにおける最も重要な文化イベントのひとつである。バルト諸国では最大規模のブックフェアで、リトアニア人作家・読者にとどまらず、著名な外国人作家にも人気だ。入場者数は毎年6万5千人を超える。野心的で多彩なプログラムには、作家とのトーク、作品紹介、ディスカッション、映画上映、コンサート、展覧会、クリエイティブなワークショップ、その他の文化イベントが含まれる(About Vilnius Book Fair – Lithuanian Culture Institute)。重要な文学賞の授与式も行われ、「ブックオブザイヤー」賞のノミネート作品は、特別なセレモニーで発表される。この「ブックオブザイヤー」賞は注目の的だ。専門委員会がさまざまなカテゴリーで選んだ5作品のなかから、読者の投票によって受賞作品が選ばれるからである。リトアニア文学・フォークロア協会 The Institute of Lithuanian Literature and Folkloreからは、その年の最もクリエイティブな本が12作品紹介され、受賞作品も発表される。
リトアニアでは毎年、重要な詩の祭典が2つ開催される。「詩の春」と「ドルスキニンカイ詩の秋」だ。1965年から続く「詩の春」は、最新のリトアニア現代詩を紹介し奨励していくための現代的な方法を模索している。詩人と読者が触れ合う場を提供するこの祭典は、首都ヴィリニュスや他の大都市だけでなく、小都市でも開催される。また「詩の春」では、 マイロニス賞をはじめとして多くの賞が授与される。1990年に始まった 「ドルスキニンカイ詩の秋」は、ヴィリニュスとドルスキニンカイで開催される。リトアニアの詩コミュニティが持つ多様性を祝うこの祭典の期間中に、ヤトヴァグ賞とヤング・ヤトヴァグ賞の受賞者も発表される。どちらの詩の祭典もリトアニアの詩を主に取り上げるが、世界各国の現代詩人も招待される。
ダイナミックで力強いリトアニアの現代文学シーンは、批評家と読者の注目を集めるにふさわしいと言えるだろう。
リナ・ブイヴィダヴィシウテ
1986年5月14日生まれ。詩人、文芸批評家。リトアニア語での詩集を2作発表している。リトアニアの主要文芸誌、外国語誌に詩を発表。文芸朗読会、新作紹介、コンクールなどに積極的に参加している。