2010年9月。ドバイ経由の飛行機で、無辺際に広がる瑠璃色の海に浮かぶ、灼熱の蜂蜜色に満ちたこの島に初めて足を踏み入れた。タラップで感じる、独特の湿気がこもったような生ぬるい空気。今でもあの空気を私の身体は覚えている。ただそれもすっかり馴染みのあるものとなってしまった。
マルタは公式には、マルタ語と英語の2カ国語を公用語とするバイリンガルの国である。しかし、マルタ語が国語であるという事実には変わりがなく、これは文学創作にはっきりと現れている。マルタ国立書籍評議会(NBC)のデータベースには、700を超えるマルタ人現代作家が登録されているが、多数派はマルタ語で書く作家である。